世界百名山
深田久弥 世界百名山  絶筆41座
新潮社初版本
昭和四十九年十一月三十日発行
(子田晃一助教授より資料提供)
 「世界百名山」は、雑誌「岳人」に1970年1月号から毎月三編づつ連載され、翌71年3月21日の茅ヶ岳における深田久弥の急逝によって中断された。(雑誌発表は、同年4月号まで)
 新潮社より発行されたハードカバーには、41座に加えて、当然執筆が予定されていたと考えられ、且つ「世界百名山」中に重要な位置を占めると思われるエヴェレスト、カンチェンジュンガ、マナスルの三座を、他の著作の中から採録し、補充してある。
 時代は、常に移り変わり行く。ヒマラヤでトレッキング中の日本人が大量遭難といった事件からも判るように、海外の山も、興味の対象という点からは、先鋭クライマーの物だけではなくなりつつある。深田久弥の世界百名山は、今こそ、時代を先取りした名著になろうとしているのかもしれない。
世界百名山リスト(絶筆41座)
NO    山名        標高  地域 登頂トチョウスミ
1  1 カズベク      5047  中部コーカサス  
2  2 シニオルチュー   6891  シッキム・ヒマラヤ  
3  3 アルパマヨ     5947  ペルー・アンデス  
4  4 カイラス      6715  チベット  
5  5 モンテ・ローザ   4634  ペンニン・アルプス  
6  6 ローガン      6050  カナダ  
7  7 ムズターグ・タワー 7273  カラコルム  
8  8 ルウェンゾリ    5095  アフリカ  
9  9 マルモラダ     3344  ドロミテ  
10 10 アマ・ダブラム   6856  ネパール・ヒマラヤ  
11 11 チンポラソ     6268  エクアドル  
12 12 キナバル      4101  ボルネオ  
13 13 ミニャ・コンカ   7587  中国西部  
14 14 ハーン・テンリ   6995  天山  
15 15 エレブス      3795  南極  
16 16 ナンダ・デヴィ   7817  ガルワール・ヒマラヤ  
17 17 モン・ブラン    4707  モン・ブラン山群  
18 18 ジャヌー      7710  ネパール・ヒマラヤ  
19 19 チョモラーリ    7314  ブータン・ヒマラヤ  
20 20 ミール・サミール  6060  中部ヒンズークシ  
21 21 レーニン峰     7134  パミール  
22 22 白峰山       2744  朝鮮  
23 23 デマヴェンド    5760  イラン  
24 24 パイネ       3050  パタゴニア  
25 25 マウント・クック  3763  ニュージーランド  
26 26 セント・エライアス 5488  アラスカ  
27 27 ニルカンタ     6596  ガルワール・ヒマラヤ  
28 28 シュレックホルン  4080  ベルニーズ・アルプス  
29 29 アララット     5165  トルコ  
30 30 ポポカテペトル   5452  メキシコ  
31 31 K2        8611  カラコルム  
32 32 スカルノ峰     5030  ニューギニア  
33 33 アコンカグア    6960  アルゼンチン  
34 34 オリンポス     2917  ギリシャ  
35 35 ナンガ・パルバット 8125  パンシャブ・ヒマラヤ  
36 36 エルブルーズ    5633  コーカサス  
37 37 マカルー      8481  ネパール・ヒマラヤ  
38 38 レーニア      4392  キャスケード山脈  
39 39 キリマンジャロ   5895  アフリカ  
40 40 ティリチ・ミール  7708  東部ヒンズークシ  
41 41 ワスカラン     6768  ペルー・アンデス  
世界の百名山 ―アルマン氏の選んだ―
 世界百名山には、1969年11月発行「毎日グラフ」増刊号に掲載された「世界の百名山 ―アルマン氏の選んだ―」という題の深田久弥の一文が、併せ収められている。現在では、このアルマン氏のリストと深田久弥のコメントによって「深田世界百名山」を推測するしかない。
 アルマン氏の世界百名山における標高のメートル表記(もとはフィート)と、未登頂でその後登頂された年代は、深田久弥が書き入れたもの。
NO 山名           所在地        標高(m)  初登頂  
  ヨーロッパ  
1 エルブルーズ       コーカサス      5633   1868  
2 ディフ・タウ       コーカサス      5198   1888  
3 コシュタン・タウ     コーカサス      5145   1889  
4 モン・ブラン       アルプス       4807   1786  
5 ウシバ          コーカサス      4710   1888  
6 モンテ・ローザ      アルプス       4634   1855  
7 ドーム          アルプス       4554   1858  
8 リスカム         アルプス       4538   1861  
9 ヴァイスホルン      アルプス       4512   1861  
10 マッターホルン      アルプス       4506   1865  
11 テッシュホルン      アルプス       4481   1862  
12 ダン・ブランシュ     アルプス       4283   1862  
13 グラン・コンバン     アルプス       4319   1859  
14 フィンステラールホルン  アルプス       4286   1812  
15 グランド・ジョラス    アルプス       4208   1864  
16 ユングフラウ       アルプス       4167   1811  
17 エイグユー・ヴェルト   アルプス       4121   1865  
18 メンヒ          アルプス       4104   1857  
19 シュレックホルン     アルプス       4080   1861  
20 オーベルガーベルホルン  アルプス       4074   1865  
21 アイガー         アルプス       3975   1858  
22 オルトラー        アルプス       3902   1804  
23 ヴェッターホルン     アルプス       3703   1854  
24 エトナ          シシリー       3313   ?  
25 オリンポス        ギリシャ       2917   1913  
26 モン・テーグィユ     アルプス       2134   1492  
27 ベン・ネヴィス      スコットランド    1343   ?  
28 ヴェスヴィアス      イタリア       1186   ?  
  北アメリカ  
29 マッキンレー       アラスカ       6187   1913  
30 ローガン         ユーコン(カナダ)  6050   1925  
31 オリザバ         メキシコ       5699   1848  
32 セント・エライアス    アラスカ       5488   1897  
33 ポポカテペトル      メキシコ       5452   1523  
34 フォーレイカ       アラスカ       5304   1934  
35 ルカニア         ユーコン       5227   1937  
36 フェアウェザー      アラスカ       4663   1931  
37 ユニヴァシティ・ピーク  ユーコン      約4572   未詳  
38 ハンター         アラスカ       4444   1954  
39 ホイットニー       カリフォルニア    4420   1873  
40 レーニア         ワシントン      4382   1870  
41 ロングス・ピーク     コロラド       4345   1868  
42 グランド・テトン     ワイオミング     4196   1898  
43 ウォーディントン     カナダ        4042   1936  
44 ロブソン         カナダ        3954   1913  
45 デボラ          アラスカ       3822   1955  
46 ワシントン        ニュー・ハンプシャー 1917   1642  
  南アメリカ  
47 アコンカグア       アルゼンチン     6960   1897  
48 ツプンガト        アルゼンチン・チリ  6797   1897  
49 ワスカラン        ペルー        6768   1908  
50 イエルパハ        ペルー        6634   1950  
51 サヤマ          ボリビア       6530   1939  
52 イリマニ         ボリビア       6462   1898  
53 サルカンタイ       ペルー        6271   1952  
54 チンボラソ        エクアドル      6268   1880  
55 ヒリシャンカ       ペルー        6126   1950  
56 チャクララジェ      ペルー        6248   未詳  
57 コトバクシ        エクアドル      5978   1872  
58 ワゴルンチョ       ペルー        5749   未詳  
  アジア  
59 エヴェレスト       ヒマラヤ       8848   1953  
60 k2           カラコルム      8611   1954  
61 カンチェンジュンガ    ヒマラヤ       8598   1955  
62 ローツェ         ヒマラヤ       8501   1956  
63 マカルー         ヒマラヤ       8481   1955  
64 ダウラギリ        ヒマラヤ       8172   1960  
65 チョー・オユー      ヒマラヤ       8153   1954  
66 マナスル         ヒマラヤ       8156   1956  
67 ナンガ・パルバット    ヒマラヤ       8125   1953  
68 アンナプルナ       ヒマラヤ       8078   1950  
69 ヒドン・ピーク      カラコルム      8068   1958  
70 ブロード・ピーク     カラコルム      8047   1957  
71 ガッシャブルム「     カラコルム      8035   1956  
72 ゴザインタン       ヒマラヤ       8013   1964  
73 アムネ・マチン      中国         7160   1960  
74 マッシャブルム      カラコルム      7821   1960  
75 ナンダ・デヴィ      ヒマラヤ       7817   1936  
76 カメット         ヒマラヤ       7757   1931  
77 ティリチ・ミール     ヒンズークシ     7708   1950  
78 ミニャ・コンカ      中国         7587   1932  
79 ムズターグ・アタ     パミール       7546   1956  
80 コムズム峰        パミール       7495   1933  
81 ジョンソン・ピーク    ヒマラヤ       7470   1930  
82 ムズターグ・タワー    カラコルム      7273   1956  
83 トリスル         ヒマラヤ       7120   1907  
84 シラー          ヒマラヤ       6400   1851  
85 デマヴェンド       イラン        5670   1837  
86 アララット        トルコ        5165   1829  
87 富士山          日本         3778   七世紀 スミ
  アフリカ  
88 キリマンジャロ      タンガニーカ     5895   1889  
89 ケニア          ケニア        5193   1899  
90 ルウェンゾリ       ウガンダ       5095   1906  
  その他  
91 カールステンツ      ニューギニア     5030   1963  
92 マーカム         南極         4350   未登  
93 マウナ・ケア       ハワイ        4222   ?  
94 マウナ・ロア       ハワイ        4168   ?  
95 キナバル         ボルネオ       4101   ? スミ
96 エレブス         南極         3795   1906  
97 マウント・クック     ニュージーランド   3763   1894  
98 グンブジョナスフェルド  グリーンランド    3700   1935  
99 フォーレル        グリーンランド    3383   1938  
100 コシュースコ       オーストラリア    2234   ?  
世界百名山のてがかり
 1969年11月発行「毎日グラフ」増刊号に掲載された「世界の百名山 ―アルマン氏の選んだ―」という題深田久弥の一文には、アルマン氏のリストに加え、深田久弥のコメントが加えられている。少し長くなるが、世界百名山のてがかりとして、引用する。なお、標高、西暦等はローマ数字であらわす。
 本文では、まず、世界百名山のやや長い前置きとして、アメリカ人であるアルマン氏について述べている。深田久弥がアルマン氏に会ったのは、エヴェレストに向かうアメリカ登山隊が日本に立ち寄った際の懇親の食事会であったという。アルマン氏は、記録担当者としてこの隊に参加しており、公式報告を後に書き、また、他にも山岳関係の著書が多数あることを紹介している。
 以下は、文末までを書き写したものである。
 さて、次に述べるのがアルマン氏の世界百名山であるが、私はこれには全部同意しない。私もたいていの世界の山を記録や写真で知っているだけで、日本百名山を選んだ時のような自信はないが、次のような理由からアルマン氏の”百名山に異議がある。
 第一このリストが作られたのは1955年以前に属するので、その後問題視された名山が除外されている。その顕著なのはヒマラヤで、アルマン氏は二十六座を挙げているが、その約半数は未登頂となっている。現在は、すれらは全部登頂されたのみならず、さらに名山に価する見事な山が他にいくつも発見されている。
 南米の山も近年は続々と日本隊が登頂して、素晴らしい写真をたくさん持ち帰っている。それらを見ても、アルマン氏の選んだ十二座が果たして正鵠を得ているかどうか疑わしい。そういうことを、次の(別表)リストを挙げた後に、具体的に述べてみたい。もちろん私個人の意見であるから、他の人にはまた他の人の意見があるだろう。何はともあれアルマン氏の選んだ世界百名山を見ていただこう。もとは標高がフィートで表されているのをメートルに直し、未登頂でその後登頂された年代は、私が書き入れた。
 まずヨーロッパの部で、初めのかたにコーカサス(カフカズ)の山が四座並んでいる。コーカサスは黒海とカスピ海を結ぶ山脈で、この山脈がヨーロッパとアジアの境とされている。したがってコーカサスの山をヨーロッパに属させるか、アジアに属させるか、よく問題になる。フランスの山岳書ではこれをアジアに入れている、山の好きな連中はそんな点をはっきりさせなければ気がすまない奇妙な癖を持っている。そんな人は、ヨーロッパとアジアの境をコーカサス山脈の主稜線におき、その線から少しでも北にはずれた山はヨーロッパに所属、南にはずれた山はアジアに所属とする。
 ジョーカサス第一の高峰エルブルーズ、次のディフ・タウ、その次のコシュタン・タウ、いずれも主稜線より北に存在し、まぎれもなくヨーロッパに属する。私たちはこれまでヨーロッパの最高峰はモン・ブランと教えられてきたが、それ以上の高峰がヨーロッパの片隅に存在していることになる。ところがその流儀でいくと、四番目に挙げられているウシバは主稜線より南に寄っているので、これはアジアの山ということになる。
 十九世紀の後半アルプスがほとんど登り尽くされると、ヨーロッパの登山家が目をつけたのがコーカサスであった。ここにはアルプスにはない5000メートル峰が数座存在する。まず、最高のエルブルーズの東峰が、イギリスの有名な登山家フレッシュフィールドによって1868年に登頂されたのを手初めに、1886年から1890年までの間にコーカサスの高峰は続々と登られていった。
 現在は、もっぱらソビエト登山者の訓練場となって、ヴァリエーション・ルートの開拓にあたっているようである。近年、外国の登山者も入れるようになって、日本からも数隊出かけ、前記四峰のうち、コシュタン・タウを除くあとの三峰は登頂している。
 エルブルーズの悠揚とした山容、ディフ・タウの雄々しい双耳峰、コシュタン・タウのいかめしい独立峰、そしてよくマッターホルンに比較されるピラミッドのウシバ、いずれも個性が顕著で、世界百名山の一員として恥じない。もう一つ私はカズベク(5047メートル)を加えたい。これは主稜線上に存在して、昔から南ロシアからグルジアへ通う道路のそばに立っていたので,多くの人の目を引いてその名が高かった。レールモントフはこの山をうたった詩を残している。
 コーカサスについでアルプスの山が二十座も挙げられているのは、私にすれば多すぎるように思われるが、何しろここは近代登山発祥の花やかな舞台であったから、ヨーロッパの人たちにとっては馴染み深いのである。最高のモン・ブランが一番初めに(1786年)登頂されて以来、アルプスの登山が活発となり、1865年マッターホルンの登頂をもって、アルプスの黄金時代は終わったとされている。
 それ以来、処女峰はほとんどなくなったが、そのかわりヴァリエーション・ルートが開かれ、やがて岩登り(クライミング)の時代となった。マッターホルン、アイガー、グランド・ジョラスのそれぞれの北壁が、アルプスで最後まで取り残されたむずかしい三つの壁と言われたのも、もう古い話になって、今ではこの三つとも征服した日本人さえ数人かぞえられる時代である。
 アルプスの山々については、多く言うこともあるまい。日本にはアルプス通が大勢いるから、ただその一部を通りすぎただけの私が、とやかく口を出す場でもない。本当ならこの中から五座ほど除去したいのだが――。
 ヨーロッパの部には、アルプス以外の山が四座挙げられている。イタリアのエトナは活火山の例として及第であるが、他の三座の選定には私は反対する。ベン・ネヴィスはイギリスに顔を立てたのかもしれないが、こんな山なら日本にはいくらでもあるし、ヴェスヴィアスなども観光地である故に有名になったので、これより鹿児島の桜島のほうがずっとすぐれているように私は思う。オリンポスもその名にとらわれすぎているのではあるまいか。
 この三座の代わりとして私が挙げたいのは、ノルウェーのレ・スネーヘッタ(2286メートル)、雄大な山容を示している。ピレネー山脈の最高峰ダネト峰(3404メートル)、花崗岩と氷岩から成る見事な山。チェコスロバキアとポーランドの間を走るタトラ山脈中の最高イエローチョフカム(2663メートル)、このタトラ山脈はわが国にも映画などで紹介され、今年、日本からも登山隊が訪れている。そのほかにスカンジナビアの氷帽峰もぜひリストに入れたいものである。
 次はアラスカも含む北アメリカ。百名山の選者がアメリカ人であるから、ここも多すぎるくらい挙げられている。アラスカの山を見ると、マッキンレー、セント・エライアス、フォーレイカ、ハンター――これらの山にはすでに日本隊が頂上に足跡を残している(初登頂ではないが)。またカナダのローガンにもロブソンにもウォーディントンにも、メキシコのポポカテペトルにも、アメリカのグランド・テトンやホイットニーやレーニアにも、みな日本隊が登頂していることは、まことにたのもしい。その日本隊が集まって北アメリカの名山を選定したら、もっと正鵠を得たものができるかもしれない。われわれとしては、アラスカの部に、日本隊の訪れたブラックバーン(5038メートル)やヘス(3640メートル)なども加えたいものである。
 日本隊のめざましい話題は、次の南アメリカに移ってさらに顕著である。アンデス山脈の昔から有名な二、三の山は別として、その他の山々が注目されだしたのは戦後に属する。各国の登山隊が未知の峰を求めてそれに足跡を印した。日本隊もそれにおくれず多くの山の初登頂を達した。そしていまでも一年に数隊がアンデスに出かけて、未登頂峰を捜している。
 アンデスの近年の開拓から推して、アルマン氏の選択はかなりの訂正を必要とする。数年前ドイツのある山岳雑誌が世界中の名のある登山家に「世界で一番美しい山は?」という質問を出したことがある。そのアンケートで一番多かった山はアンデスのコルディエラ・ブランカ山群中のアルパマヨ(5947メートル)であった。鋭い三角錘の、まことに胸のすくような美しい姿である。そういう山がアルマン氏のリストには欠けている。
 パタゴニアに登山家がはいり出したのも近年のことで、そこにはすごい岩壁を持つフィッツ・ロイ(3373メートル)やパイネ(3050メートル)のあることが一般に知られてきた。標高はたいしてないが、海からすぐそそり立った氷と岩の峰は見事な景観である。こういう山もアルマン氏のリストには欠けている。
 アジアの部では二十九座があがっているが、その大部分は広い意味でのヒマラヤである。ヒマラヤなら私には自信がある、リストに載った山々の半分は更迭したい。最初に書いたようにアルマン氏がこの表を作った時に比べて、ヒマラヤにも素晴らしい山がたくさん紹介されてきている。更迭についていちいち述べだしたらきりがないが、さっきのドイツの雑誌の投票にも多くの登山家の認めているとおりネパールのアマ・ダブラ(6856メートル)とマチャプチャレ(6997メートル)、シッキムのシニオルチュー(6891メートル)はぜひ加えたい。これらは7000メートルには達しなくとも、その姿のすぐれている点で十分に世界百名山の一員たる資格がる。
 ヒマラヤ以外には、イランのデマヴェンド、トルコのアララット、日本の富士山が選ばれているが、妥当である。いずれも美しいピラミッドである。日本人としての抱負だけではなく、私は富士山のほかに阿蘇山を入れる。これほど雄大な規模を持った火山は他に類がないからである。それにしても世界百名山の中で私は富士山を十の中に数える。これほど優美で、これほど芸術の題材となり、これほど古い歴史を持つ山は、世界第一であるからである。
 アフリカの三つの山は、これはこれで動かしがたい。賛成である。
 その他の部では、ニューギニアのカールステンツ峰は現在、スカルノ峰と呼ばれる。1996年ニューギニアがオランダからインドネシアに渡された際、時の大統領のスカルノの名をとって山に冠したのである。南極では二つの山があがっている。マーカムとエレブス。マーカムはクィーモード山脈にあり、エレブスはロス島にあって南極唯一の活火山である。しかし、南極の開拓された今日、むしろセンチネル山脈の山を挙げるべきであろう。同山脈中のヴィンソン山群のタイリー(4965メートル)には、1966年アメリカ隊が初登頂した。到着がもっと便利になれば、南極の山々もこれからどんどん登頂されるであろう。登山家の新領土である。
 グリーンランドのフォーレル、ボルネオのキナバル、ニュージーランドのマウント・クック、いずれもそれらの島を代表する名山と見ていいが、ハワイのマウナや、オーストラリアのコシュースコなどは、あらずもがなに思われる。それならむしろニュージーランド北島のマウント・エグモントをあげたい。今年の二月この山に私が登頂したから言うのではない。富士山形の美しい山容を持っている名山の名を辱かしめない。
 さて、以上私の意見によると、マルマン氏の世界百名山はかなり変更する。私の作った表を挙げたいが、その紙幅もないし、それにまだ確固とした自信もない。世界のおもな山を全部見た上で百を選べる人は、世界にまだ一人もいないだろう。しかし、世界は狭くなりつつある。やがて、そんな人が出てくるかもしれない。
 それにしてもこのリストを眺めて感慨にたえないのは、日本人の登山の進展である。百名山のうち八十%は登っている。それも戦後十数年間のことである。この日本人のおどろくべきエネルギー。もし登山をスポーツと見なすならば、この数年、優勝メダルを取り続けているのは日本の登山家であろう。
地理10月増刊「世界の山やま」
 ヨーロッパ・アメリカ・両極編
 アジア・オセアニア・オセアニア編
 古今書院 1995年10月31日発行
 世界の山やまを知る上で、適当な解説書が最近出版されている。写真、地図等も豊富で、地理的特徴の解説は勉強になる。また、参考文献も、参考になる。
 この本の前書きには、このように書かれている。
 世界の山についての写真集や解説書は相当数刊行されている。それらには、ヒマラヤやアルプスなどの有名な山やまについて、山の美しさやコースのガイド、登はん史、山名の由来などがしめされたり書かれている。しかし、山の美しさをわかりやすく述べたものは少ない。しかも世界の山はヒマラヤやアルプスばかりではない。登山や観光の対象にならない多くの無名の山やまが存在する。
 そこでわれわれは、1 世界中のいろいろな場所の山を取り上げ、2 その多様な自然のありさまや成り立ちを述べ、3 写真・地図・ダイアグラムなどによって具体的な山の姿を知ることができることをめざした。
 この本を見ていると、世界には、写真を見ただけでも驚かされるような、多種多様な山があることに気づかされる。たとえば、最近まで鉄のカーテンによって閉ざされていたカムチャツカ方面は、世界有数の火山地帯で、4000メートルを越す山がいくつもあり、東アジアの最高峰とされるクリシュチェフスカヤ(4750m)は、富士山と見間違うほどの美しい山容をしており、世界百名山に相応しいように思う。世界の山に関する情報が増えるにつれて、現在では、深田久弥の考えていた世界百名山もすでに多くの修正を要するものになっているのかもしれない。
 将来、誰かが再び世界百名山を選ぼうとするであろう。しかし、世界中の山からたった百の山を選ぶことは、本来、無謀な試みなのではないだろうか。