2002年 7月12日
2008年12月25日修正・加筆

北海道で捕獲されたバスは、誰が放流したのか



 北海道でこれまでに捕獲されたブラックバスは、いったい誰が持ち込んだものだったのだろうか。

 淡水魚であるブラックバスが海を越えて北海道まで渡って来られるはずがなく、これらがすべて人為的な行いによって持ち込まれたものであることは、疑いようのない事実である。

 では具体的にはどのような事例が考えられるだろうか。一般的に「飼育魚の遺棄または流出」や「他魚種の放流への混入」など、必ずしも意図的ではない原因の可能性も指摘されているが、関係各方面でもっとも関心が寄せられているのは、ブラックバス釣り場をつくることを目的とし、バスが定着することを期待して意図的に、違法もしくは地域社会などの合意を得ず密かに行われる放流───いわゆる「密放流」である。

 では、北海道における捕獲当時の状況などを踏まえて考えてみることにしよう。

 もっとも簡単な入手方法のひとつとして、かつては道内のペットショップなどでもブラックバスの購入が可能であったという。また道内でのバス公式確認以前にも札幌近郊のペットショップから道立水産孵化場に対して、個人で飼いきれなくなったとされるブラックバスが譲渡されたという例もある。これらはブラックバスを観賞魚として飼育する目的の需要があったことを示すものだ。

 また本州で釣り上げられ、釣り人自身によって飼育されていたものが、飼育者の北海道への転居に伴い持ち込まれたものもあるようだ。これについてはかつて、道内の飼育者自身によるホームページ内において、その入手から北海道へと持ち込むいきさつ、飼育の記録などが掲載されているものを複数確認している。このようにして飼育されていたものが、何らかの事情で飼いきれなくなり遺棄されたか、誤って自然界に流出させた可能性も決して否定できるものではないが、余市ダムや南幌親水公園の事例はその状況や捕獲数から、これらが当てははまるものではないだろう。

 「他魚種の放流への混入」についてよく指摘されるのが、琵琶湖産稚アユ種苗への混入である。バスが湖産アユ種苗に混入し、拡散したであろうことは、これまでの状況、情報などからある程度事実と推察できる。が、道内でバスが捕獲された3カ所においては湖産アユが放流された実績はない。

 道内に広く流通するワカサギは、基本的に網走湖産をはじめとする道内産種苗であるし、ワカサギは通常卵の状態で移植されるといい、ここでの混入は考えられない。

 また、大沼国定公園の円沼ではスモールマウスバスが捕獲されているが、スモールマウスバスは本州でもアユやヘラブナの産地では繁殖が確認されておらず、種苗への混入は起こり得ないという。

 では「密放流」はどうか。

 これまでブラックバスを擁護する釣り人や釣り業界によってその存在すら否定されてきた密放流だが、バスプロらの著書や一般の釣り人のホームページなどには、ブラックバスの移植放流について記述されたものもあるし、2000年11月には富山県で釣り人がため池にブラックバスを密放流し、県の内水面漁業調整規則違反で検挙されている。また道内のある遊漁団体の幹部が、本州において明らかになっている過去の密放流について、釣り団体(釣り具業者?)が関与したことを認めているという。

 また日本最大の釣り団体である(財)日本釣振興会は、「1992年に水産庁が通達をだす以前のそれは単なる“移植”」であり「1992年以降、釣り業界も釣り団体も組織的な無許可放流は1度も実施したことがない」と主張している。その内容からは1992年以前には、組織的なものも含む無許可放流を実施していたであろうことが示唆される。だがブラックバスが発見される以前から既に、もともと生息していなかった水産動植物の移殖を禁止する漁業調整規則などが制定されていたところもある。

 さて、道内で捕獲されたブラックバスも、密放流によるものだったのだろうか。

 そもそも最初にバスが捕獲された円沼での調査は、ブラックバス放流に関する情報が寄せたれたことにより行われたものである。またその情報は具体的な数字を含む、信憑性の高いものであったという。

 余市ダムでは、2002年9月4日に捕獲用に設置されていた箱網の魚を取り出すために取り付けられているファスナーが、何者かによって開けられる事件が発生し、夜間から早朝の間に中に入っていたバスを逃がしたか持ち出したことが考えられた。こうした駆除の妨害行為は、逃れたバスが定着することを期待して行われたと考えるのが妥当で、それは「密放流」が行われた可能性がきわめて高いことを示すものだろう。

 また体の成分やエサを分析することで、ブラックバスの放流時期を探る手法が北海道立水産孵化場の研究チームによって開発された。これによって余市ダムでは放流後半年を経過していないこと、南幌親水公園では複数回にわたって放流が繰り返されたことなどが推定された。

 これらのことからいずれの放流も、2001年のブラックバス等移殖禁止の委員会指示もしくは道内水面漁業調整規則改正後に行われた違法なものと推察できる。

 いったい誰が、何の目的でこうした密放流を行うのだろうか。一般的に考えると、バスの生息によるメリットがある人間の仕業と考えるのが妥当なところか。

 道内でもバスの生息が確認された水域において、明らかなバス狙いの釣り人が訪れていたり、そうした釣行についての記述がある釣り人のブログなどもあった。また公認バス釣り場の増設を求めた100万人署名運動の際には、(財)日本釣振興会の北海道地区支部によって延べ1万人弱の署名が集められるなど、北海道においても少なからずバス釣りを欲する向きは存在している。

 さて、密放流されたバスの種苗はどこで入手したものだったのだろう。これ以外にも観賞用などとしての需要もあったろうし、本州のバスが漁業権魚種として認可された場所───いわゆる公認バス釣り場では、それぞれの場所を管理する漁協に第五種共同漁業が免許されており、これにより水産動植物の増殖の義務を負っていて、もちろんブラックバスも例外ではない。こうした需要に応えるのは、一般的にはやはり養殖ということになろうか。

 北海道でも2002年に、道東の養殖業者によって5万匹のバスが養殖されていたことが確認され、この時点でブラックバスの道内への持ち込み、養殖などを禁じる法律や条令はなかったが、行政からは中止が要請され、バスの養殖の自粛を求める文書が、道内の養殖業者に向けて出されている。

 この他にもブラックバスを仕入れた釣り堀に関する情報がある。北海道ではあまり知られていないようだが、本州ではブラックバスを釣ることができる管理釣り場───すなわち釣り堀が少なからず存在しているという。

 北海道では1998年に、石狩支庁管内と網走支庁管内の釣り堀2業者が本州産のブラックバス種苗を購入していた。これらはそれぞれの業者の釣り堀池で飼育されたが、最初の越冬条件が水温低下などの影響で厳しく、生残率が低かったという。また詳細は不明であるものの、購入年と越冬後に一部が放流されたと伝えられている。北海道における一連のブラックバス確認事案とは別に、このようなカタチで北海道にブラックバスが持ち込まれ、それらの移殖放流が行われていたという事実にはただ驚かされるばかりだ。それにしてもこれらの放流には、いったいどのような目的があったのだろうか。

 現在ブラックバスは「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(以下、外来生物法)」により特定外来生物に指定され、飼育・栽培・保管・運搬・販売・譲渡・輸入・野外に放つことなどが原則禁止となった。また防除が必要になった場合で、原因となった行為をした者があるときは、国はその費用を原因者に負担させることができるようになった。今後この法律が新たなブラックバス侵入の抑止力となることに期待をしたい。