2008年12月25日

エサで解明できる密放流
─安定同位対比の分析による判別─




 ブラックバスのような大型肉食魚の体の構成成分はエサによって変わる。こうした性質を利用して、捕獲したブラックバスの食性を調べ、エサとなっている生物とブラックバスの魚肉について炭素および窒素の安定同位対比を分析することで、捕獲された水域で成長したものか、あるいは違法に放流されたものかを判別する手法が北海道立水産孵化場の研究チームによって開発された。

 これにはまず飼育実験により、バスの体の成分の変化が調べられた。2002年7月に養殖業者から入手した平均体重約4gのラージマウスバスの稚魚を、人工飼料で1年間飼育したのち、バス(平均体重約24g)と人工飼料の安定同位対比を測定した。次にエサを石狩古川で漁業者が捕獲したスジエビ(1.5〜2.5g)に代えて、毎日20〜30尾を与え、ほぼ1ヶ月毎の安定同位対比を分析したところ、バスの体の成分は徐々に変化し、約半年で安定することがわかった。

 この実験を基にして、余市ダムで2002年に捕獲されたラージマウスバスと、胃中から確認されたスジエビ、余市ダムでエサとなりうるニジマスやアメマス、ハナカジカ、フナなどについて安定同位対比を分析したところ、一部を除いてはこの水域の魚介類を半年以上食べ続けているとは考えにくく、比較的最近に放流された可能性が高いと判定された。

 また南幌町の親水公園内の沼で2002、2003年に捕獲されたラージマウスバスと、ここでエサとなりうる魚介類も調べた。いずれも安定同位対比から体重約100gのものと、500〜700gのものとの2グループに分けられ、500〜700gのものは長期間この沼に生息していた可能性が高いが、100gのグループはこの池に生息している魚介類とは別のエサを長い間食べていたものが、比較的最近この水域に放流されたと判定され、その時期は捕獲から6ヶ月以内と推定された。

 また2004年6月に同沼で捕獲された約300gのラージマウスバスも、安定同位対比から沼のエサを食べて成長したとは考えられなく、既に他のエサによって成長していたことを示しており、新たにごく最近違法放流された可能性が高く、違法な放流が繰り返されていたことが示唆された。

 この手法に関する資料が、2005年1月7日に開かれた環境省の外来生物法に関わる特定外来生物選定のための専門家会合「第3回・特定外来生物等分類群専門家グループ会合(魚類)・オオクチバス小グループ会合」において、議事資料として提出されている。

 これまで日本におけるブラックバスの存在を積極的に擁護する発言を繰り返してきた東京海洋大学の水口憲哉教授は、同会合の中で「それはもう世の中いろいろですから、あるに決まっている」、「事実としてあると思いますよ、この結果から」と、本手法の結果なども含め、密放流の存在を認めている。

 これまで擁護派らによって「(密放流は)あり得ない」とか「証拠を示せ」などとされてきた密放流だが、本手法は科学的解明手段として有用であり、密放流の証拠となりうるだろう。