2008年12月25日

電気ショッカーボートの導入



 2004年7月、魚を電気ショックで一時的に感電麻痺させ捕獲する特殊ボート「エレクトロフィッシングボート(以下、電気ショッカーボート)」を、北海道が全国で初めて導入した。水中に電気を流し、しびれて動けなくなった魚の中からブラックバスなど外来魚を選択的に捕獲することができるため、在来魚混獲等の悪影響の防止とともに、捕獲調査(駆除)の効率性の向上が期待できる。

 電気ショッカーボートは約4.4メートルの4人乗りで、船外エンジン(4ストローク/9.9馬力)付きのボート本体は国産のFRP(ガラス繊維強化プラスチック)製の救命ボート(NKM-1型/日軽産業株式会社)を転用し、電気ショックのシステム一式(スミスルート社製、モデル2.5GPP型)は、こうした捕獲方式が広まっている米国から輸入した。

 最大の特徴は舳先から伸びる長さ約2.5メートルの2本のアーム(腕)で、先端にはそれぞれ6本の電極ワイヤーが下がる。これを水中に沈め、フットペダル式のスイッチの操作により、ボートに積載された発電機から最大で1,000ボルトの電気を水中に放ち、感電し浮いてきた魚を網ですくう。この際外来魚だけを選択して捕獲し、それ以外の魚については、場合によりボート上の水槽にいったん移して、覚醒を待ってから湖沼に戻すという。電気ショックの有効範囲は水質などの諸条件にもよるが、電極から数メートルで、体表面積の大きな魚ほど感電しやすい。

 これまで外来魚駆除の主流であった刺し網による捕獲では、一緒に網にかかった在来魚も死んでしまうという問題があったが、電気ショッカーボートではそれを回避できる。また、捕獲の効率性が高く、繁殖・定着の抑止力が大きい電気ショッカーボートの導入には、ブラックバスなど外来魚の定着を期待して行われる違法放流防止の効果も期待できるだろう。

 電気ショックによる捕獲は、人が背負うタイプの機械が既に国内で河川調査用に普及していたが、このタイプは約2時間程度でバッテリーが切れてしまうといい、湖沼での使用には向かなかった。これに対し電気ショッカーボートは発電機を使用するため、使用時間に制限がない。

 2004年7月13日には、国内では初めてとなる電気ショッカーボートによる捕獲調査が南幌親水公園において行われ、7匹のラージマウスバスを捕獲している。その後も道内各所において電気ショッカーボートによる捕獲調査が継続され、2007年5月28日には北海道からブラックバスを一掃したと宣言するに至った。

  これまで一掃(根絶)は困難とされてきたブラックバスなど外来魚の駆除だが、北海道でそれが達成されるには、電気ショッカーボートの導入による駆除効率の向上が大きな要素であっただろう。

 また、2007年からの5年計画で行われている「独立行政法人 水産総合研究センター」から北海道への受託研究課題、「電気ショッカーボートによる外来魚の駆除技術の開発」の目的のひとつに、外来魚の生息数推定方法確立がある。これによりブルーギルが生息する函館・五稜郭公園のお濠、環境省が管理する皇居外苑壕や福島県、埼玉県、滋賀県での調査が継続され、データが収集されている。

 ブラックバスなど外来魚の駆除でもっとも難しいのは、「あとどのくらい生息しているのか」や「完全な駆除(根絶)ができた事」の確認であるという。北海道ではこれを求めるツールとして、インターネットの公開プログラム「Capture(http://www.mbr-pwrc.usgs.gov/software/capture.html)」を使用している。このプログラムに捕獲数などのデータを入力することで推定生息数が求められるが、これまでに調査で得られた結果を検証したところ、それは充分に信頼できるものであるという。

 これらのことは電気ショッカーボートを使用してのブラックバス駆除が、一定の条件下においては根絶することが可能であり、外来魚駆除の一手法として確立しつつあることを示すものだろう。

 アイヌ神話の「湖や沼を司る神」の名に由来して「トコロカムイ」と命名された電気ショッカーボートは、その名のとおり北海道の湖沼の守り神となるのかもしれない。



「電気ショッカーボート概念図」

(資料提供:北海道立水産孵化場)



 北海道・南幌親水公園の沼(通称:晩翠沼)
 福島県・猪苗代湖南東部のワンド「鬼沼」
 皇居のお濠での調査
 ボート本体は4分割の組立式で、この状態で運搬される。船名は「第2トコロカムイ号」。
(写真提供:北海道立水産孵化場)



電気ショッカーボートによるブラックバス捕獲調査
(YouTubeによる動画)




(南幌親水公園/2004年9月21日)