2008年12月25日

ブラックバスについて


1.概 説

(1) 名 称

 「ブラックバス」とは、北米原産の淡水魚でスズキ目サンフィッシュ科オオクチバス属の魚類の総称として用いられる俗称である。このうち現在、日本国内で定着が確認されているのはラージマウスバス(オオクチバス)とスモールマウスバス(コクチバス)で、これら2種については2001年7月北海道においても捕獲され、これが初めての生息確認となった。

(当サイトでは、特にいずれかの種を区別して取り扱う必要がある場合を除き、「ブラックバス」もしくは単に「バス」と呼称している。また特定の種を呼称する際については、標準和名ではなく「ラージマウスバス」、「スモールマウスバス」など英名の読みをカタカナ表記で用いた。これは何ら社会的合意も得ぬまま、歴史的な必然性も伴わず、いつのまにか無秩序に日本全国に拡散、定着し、我が国の自然に悪影響を与えているという不自然な魚を、和名にて呼称する必要はないという管理者の個人的な考えによる。)


(2) 移入の経緯

 ブラックバスは1925年、実業家・赤星鉄馬氏によって神奈川県の芦ノ湖に持ち込まれた。この際、ラージマウスバスとスモールマウスバスの2種を放流したとされているが、後者については定着しなかったと伝えられている。

 移植先として芦ノ湖が選定された大きな理由の一つとして、「他の淡水系と絶縁されブラックバスが繁殖しても他の淡水区域に移行できない地理的条件」と挙げていることから、その移植にあたっては拡散防止を考慮してか、慎重に行われたようである。

 赤星氏は自著の中で「自分の要求する諸条件に合致した一番理想に近い魚」とブラックバスを位置付けており、その条件の筆頭には「食べて美味、日本人の嗜好に十分適するもの。これが第一」と挙げ、「この魚が市場へ出回り、食用魚の王座へ向かって進出する資格を十分備えている」、「我が国の淡水魚には匹敵するもののない価値の高い食用魚であり、釣魚である」などともあることから、当初の導入には釣魚として以上に食用とするねらいが大きかったことがうかがえる。


(3) 全国への拡散

 1925年の芦ノ湖への移植以降、ごく一部の水体では試験放流などが行われたものの、1960年までにブラックバスが生息する水域は僅か8つの湖沼であった。つまり芦ノ湖への移植から約40年程は、ごく限定された水域にしかバスは生息していなかった。

 それが1970年代以降、ルアー釣りブームと呼応するかの如く急速に広がり、1988年には北海道と岩手を除く45都府県、9,785水体で確認されるまでになった。2001年7月には北海道でもバスが捕獲され、とうとうすべての都道府県においてバスを確認、現在では1万を超える水体でバスが生息しているという。

 僅か2〜30年ほどで全国の湖沼を席巻するまでになったブラックバスだが、この間公式な移植の記録がほとんどないという状況はきわめて不自然である。

 また、当初芦ノ湖では定着しなかったとされ、その後も確認されることのなかったスモールマウスバスが、1991年に長野県・野尻湖で突如として確認され、その後急速に分布が拡大、2001年7月までに37都道県での採捕が確認された。極めて短期に分布が拡大したこと、それまでの生息水域とは関係のない遠く離れた場所で突然採補される例が多く、釣り人による積極的な利用も見られることなどから、釣り人らによる人為的かつ意図的な放流───いわゆる「密放流」が行われたことは疑いようがない。

 ブラックバス拡散の原因として「密放流」以外にも、「他魚種の放流への混入」、「飼育魚の遺棄」、「既生息域からの拡散」などの可能性が指摘されるが、こうした爆発的な広がりは密放流以外では到底説明がつかず、「釣り人らの関与」はもはや否定できるものではない。

2.生 態

 ここではラージマウスバス、スモールマウスバスの2種について解説する。それぞれに相違点が認められるものについては、表を用いて比較した。

(1) 生息場所

魚  種 ラージマウスバス スモールマウスバス
生息水域  河川湖沼の止水域やため池など、流れのない水域に多く見られる。汽水でも生息が可能。  冷水域や流れのある水域で、透明度の高い澄んだ水を好む。流れ込みや川にも積極的に移動する。
選好場所  比較的水深の浅い、岸辺近くの水草帯にひそむ。  湖沼では岸から離れた深みでも見られ、岩盤帯などを好む。
選好水温  温水性。比較的高い水温を好む。  冷水性。
その他  適応能力が非常に高く、深い水域やある程度流れのある川でも確認されている。琵琶湖では水深20メートル付近の深場で、新潟県では渓流でも確認されている。  ラージマウスバスに比して適応能力は劣ると言われているが、流水域にも生息できるため、定着すれば在来生物に与える影響がきわめて大きいと予想される。


(2) 食 性

 肉食性であり、魚類やエビなどの甲殻類を主食とし、両生類や水生昆虫、水面に落下した陸生昆虫のほか、捕獲したバスの胃袋から野鳥が出てきたなどの報告もある。

 ラージマウスバスの場合、生まれて間もなくは動物性プランクトンが中心だが、やがて強い魚食性を示すようになる。ある調査では30〜120mmの個体では胃内容物の過半量を魚類が占めていたといい、また別の調査によれば体長20mm程度の段階からコイ科の仔・稚魚を主に捕食していたとの報告もある。

 体重1sのバスを生産するのに最も効率の良い時で2.7s、成長の悪くなる10月以降では5〜10sのエサが必要とのデータがあり、その大食漢ぶりがうかがえる。


(3) 繁 殖

 日本国内での産卵は4〜7月頃といわれており、親魚は水底の砂利をならした産卵床をつくり、そこで産卵、卵およびふ化後の仔魚・稚魚を保護する。産卵床作り、保護はオスが行う。1回の産卵数は2,000〜20,000粒くらいで、オスは産卵床にとどまり卵をヒレであおぎ、卵に泥などが付着するのを防ぐとともに、新鮮な水を送る。また、産卵床に近づくものがあれば攻撃を仕掛け、追い払う。卵は通常7〜10日間で孵化し、ラージマウスバスの場合仔・稚魚が自分でエサをとることができるようになるまで、親魚は保護を続ける。こうした性質であるため稚魚の生存率が非常に高く、繁殖力が強い魚だといえる。またスモールマウスバスが稚魚の保護をすることはないという。

 ラージマウスバスとスモールマウスバスでは水温や産卵場所に違いが見られる。

魚  種 ラージマウスバス スモールマウスバス
産卵水温  16〜20℃前後  13〜20℃といわれているが、赤星鉄馬氏の著書によれば「10℃から開始され、13℃になれば十分」とされている。
産卵場所  底質が砂、砂利もしくは礫。泥底の場合は水草の茎などを利用する。 浅場の砂礫底


(4) 成 長

 成長は早く、約2年で20センチを超え成熟する。ラージマウスバスの場合、オスで5〜7年、メスで10年程度の寿命を持つという。成長率は食餌と水温の状況によって変化するが、最適な状況におかれた場合には、年間で1ポンド(約450g)以上成長することもあるという。またラージマウスバスはスモールマウスバスに比べて成長率が優れている。


(5) 塩分耐性

 ラージマウスバスは汽水域でも生息が確認されているが、アメリカ・ミシシッピ川では最高で塩分濃度12PPtまで生残できるとの報告がある。しかしその成長は4PPtを越えると落ちてくるという。(PPtは千分率のことで、海水の場合28〜35PPtで、1sの水に28〜35gの塩分が溶け込んでいる)

 この他、アメリカではかなり塩分濃度が濃い汽水でもしばしば漁獲されるといい、日本でも大阪湾内でラージマウスバスを目撃したとの情報もあることから、上述した以上の塩分濃度でも耐えうる可能性も否定できない。

 定着が確認された場合の拡散防止にあたっては、これらも考慮する必要があるだろう。

3.現 状

(1) 利 用

 一般に釣りの対象魚として利用されているが、移入当初赤星氏によって第一の目的と考えられていた「食用」について、ごく一部の例を除いては積極的に食用とする動きはほとんどみられない。せいぜい駆除を目的に捕獲されたバスの有効利用として、その調理法などが紹介されたりしているにすぎない。

 バス釣りはその需要に依存した産業が形成されており、業界団体によるとピーク時におけるバス釣り人口は約300万人、関連市場は1,000億円超と伝えられている。

 こうしたバス釣りブームの背景には、「トーナメント」と呼ばれるバス釣り大会の実施や人気芸能人など著名人が趣味としてバス釣りを楽しむ様子がメディアによって華々しく紹介されるなど、業界による派手なプロモーションもある。またその釣法がルアーフィッシングというエサを使わないものであったことや、釣り上げた魚を再び水に返すキャッチ・アンド・リリースなど、これまでの釣りのイメージを一新させ、上述したようなカタチで芸能人が「広告塔」の役割も果たし、ちょっとオシャレな遊びとして一般に広まったことで、釣り人ばかりではなくそれまで釣りとはまったく縁のなかった人々までをもバス釣りの世界へと引き込んだことなども、爆発的なブームへとつながる要因だったと考えられる。

 現在ではバス釣り人口は急速に激減しており、バス釣りブームは既に終わったと言えるだろう。バス釣りに特化した釣具店の閉店やバス釣り雑誌の休刊なども少なくないといい、かつて1,000億円超といわれた巨大マーケットも、急速に縮小しつつある。バス釣りブームが去った今、元々釣りに興味がなくブームに乗ったような人々は、その多くが竿を置いたのではないだろうか。

 現在既にブームは去ったものの、生息水域では未だ積極的な釣りでの利用がみられ、バス釣り業界の産業的な市場規模も、ある程度維持されている。


(2) 規 制

 2005年6月に施行された「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(通称:外来生物法)」おいてラージマウスバスとスモールマウスバスが「特定外来生物」に指定され、これを飼育・栽培・保管・運搬・販売・譲渡・輸入・野外に放つことなどが原則禁止となった。これらを違反した場合には3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、法人の場合は1億円以下の罰金が科せられることとなった。

 またサンフィッシュ科からはブルーギルも特定指定されているほか、その他のサンフィッシュ科の魚類についても「未判定外来生物」に指定され、これを輸入しようとした場合には事前の届出が必要になる。

 このほか外来生物法の施行以前から既に、沖縄県を除くすべての都道府県では内水面漁業調整規則によりその移植は禁じられていた(沖縄県は内水面漁業調整規則が制定されていない)。北海道の場合は2001年3月に道内水面漁場管理委員会が放流の禁止を指示、同年10月1日には道内水面漁業調整規則を改正し、ブラックバスの移植放流を正式に禁止した。

 こうした法規等により、無秩序なブラックバス放流の抑止力となることが期待されるが、釣りそのものを禁じた条項はなく、北海道では委員会指示や漁業調整規則で禁じられていたにも関わらずバスの放流が相次いだ事などもあり、侵入防止の点におけるそれらの実効性については、まだまだ課題も残されている。


(3)侵略的外来種

 国際自然保護連合(IUCN)が選んだ「世界の侵略的外来種ワースト100」の一つにラージマウスバスが選ばれている。

 このリストは「生物の多様性および人間活動に対する深刻な影響」と「生物学的侵入の重要な典型事例」の二つの規準によって選ばれているが、たくさんの事例を紹介するために、一つの属からは一つの種だけが選ばれている。

 なお日本生態学会による「日本の侵略的外来種ワースト100」ではラージマウスバスとスモールマウスバスの2種が選ばれている。

 また北海道でも独自の外来種リストを「北海道ブルーリスト」として発表し、こちらもラージマウスバスとスモールマウスバスの2種が選ばれている。この「ブルーリスト」とは、希少野生生物のリストが「レッドリスト」とされていることを踏まえて、ブルー(青色) とレッド(赤色)を対照的に捉え命名されたものである。

4.ブラックバス問題とは?

 ブラックバスは既存の生態系を改変させるものとして、特に在来生物群集に対する影響が懸念されている。これには魚食性が強く多量に摂餌するという食性に加えて、繁殖力が強いためにバランスを崩して増えすぎてしまうというブラックバスの生態が大きく関係している。実際にブラックバスが増加した前後に魚類群集の劇的な変化が捉えられた事例が、全国にいくつも存在する。

 またその影響は魚類にとどまらず両生類や水生昆虫などにもおよび、小型の魚類の激減が魚食性の鳥類にとって餌の枯渇にもつながるなど、間接的な影響も考えられる。

 ブラックバスの侵入によって淡水域の生態系に深刻なダメージを与えるであろうことは、ラージマウスバスが「世界の侵略的外来種ワースト100」の一つに選ばれていることからもうかがえよう。

 しかも問題はこうした生態的影響にとどまらない。元々ごく限られた水域だけに移植されていたブラックバスだったが、1970年代以降急速に分布が拡大し、すでに全国すべての都道府県において生息が確認されるまでになった。これにはブラックバスが釣りの対象魚として人気があることと無関係ではなく、原因として釣り人らによる「移植放流」が大きく関わったであろうことは、もはや否定できまい。例えばバスプロ(バス釣りを生業とする人)らの著書などでも、移植放流に関する記述をみることができるばかりでなく、違法放流を行った一般の釣り人が逮捕された事例もある。

 一般に「密放流」、「ゲリラ放流」などと呼ばれる釣り人らによる自主的な移植放流は、バス釣り場を作ることを目的とし、バスが定着することを期待して行われたものである。またそれらは社会的合意もなく無秩序に、もしくは違法に行われたものであり、反社会的かつ犯罪(的)行為だといってよい。

 一般のバス釣り人(以下、バサー)の多くは「自分は密放流をしていない」と主張するが、「バス釣り」そのものが密放流の成果を利用しているという「反社会的側面」を持つばかりでなく、バスの存在を欲する彼らが存在しなければ、全国のあちらこちらにバスが生息するまでに放流される理由は無かった。

 そうした密放流の”成果”に依存することで成立するバス釣りは、1980年代後半頃から空前のブームとなり、それによって利益を得る「バス釣り業界」はピーク時で年間1,000億円超とまで伝えられるほどの巨大市場を築いた。こうしたブームの背景には、ブラックバスでより大きな利益を得たいと考える業界による熱心なバス釣り振興もある。

 バス釣り業界はその商業主義からブラックバスを擁護する発言を繰り返し、業界の欺瞞に満ちた詭弁に踊らされたバサーは、密放流されたバスを釣ることでバス釣り業界を支えている。

 ブラックバス問題はわずか20〜30年の間に全国の河川湖沼に広まったことによる環境問題であるとともに、密放流という反社会的、犯罪(的)行為の上に形成された業界が、ブームに乗って莫大な利益を得て、それを持続させ、より増大させたいために公然とバス釣りを擁護するなど、大きな社会問題であるともいえる。