2002年 7月12日
2008年12月25日修正・加筆

北海道にブラックバスはいらない


 2001年7月13日、北海道南部にある大沼国定公園内の円沼において、スモールマウスバス1匹が捕獲された。これが北海道において初めてとなるブラックバスの公式確認である。

 当然のことながら、明らかに本件は人為によるものである。淡水魚であるブラックバスが、本州から津軽海峡を越えて自ら分布を拡大できる筈がない。一体誰が、何の目的で放流したのであろうか。以前から本州以南で顕在化しているブラックバス問題、それは国会などでも取り上げられ、既に社会問題にも発展していると言っていい。

 北海道でもこれ以前より、その生息や分布拡大を懸念する声はあったし、既にこの時点でも北海道、沖縄県を除く全都府県ではこれらの移植放流は規制されており、北海道でも内水面漁場管理委員会が2001年3月より放流の禁止を指示していた(罰則の規定はなし)。 そうした中で最後の砦であると思われた北海道においてブラックバスが確認されたという事の重大さを、私たちは認識しなければならないだろう。

 円沼ではつづいてラージマウスバスも捕獲され、それから約1年後の2002年7月以降、後志管内の余市ダムでは稚魚を含む226匹ものブラックバスが捕獲された。さらに同年9月には札幌近郊の南幌町にある南幌親水公園内の沼でもブラックバスの捕獲が相次いだ。

 それまでブラックバス問題は、我々北海道民にとって津軽海峡を挟んだ「対岸の火事」のようですらあったが、これら一連の捕獲事案は北海道がその渦中に立たされつつあることを認識するのに充分すぎる「事件」だったのではないだろうか。

 こうしたさなかにあった2001年10月1日、道は北海道内水面漁業調整規則を改正し、ブラックバス、ブルーギルの外来魚2種の放流を正式に禁止(現在はブラウントラウト、カワマス、カムルチーを含む5種)し、違法放流を行った者に対する罰則規定を盛り込んだ。また今後新たな生息が確認された場合にはその水域を徹底的に調査、駆除を行い、根絶を図るという方針を決定した。北海道がこれらの外来魚を認めないという、断固たる意志の現れだろう。

 こうした努力の甲斐もあって2007年5月28日、北海道はブラックバスを一掃したとの宣言をするに至った。根絶の成功である。果たして───今後の北海道は、この魚を文字どおりの水際で防ぎきる事ができるのだろうか。

 さて我々釣り人はどうか。

 そもそもブラックバスはそれを対象とした釣りが人気であり、業界団体によればその釣り人口は約300万人、関連市場は1000億円と言われるほどの著しいブームであったことが、その問題をより一層複雑化させていた。だがこうした経済効果や特定の受益者の都合などにより自然を改変するという行為は、多くの釣り人らが嫌悪する開発などによる環境破壊と何ら変わるものではない、と私は感じている。

 私自身、釣り人のひとりとしてこう考えている。
───「釣りという行為は、釣り場の風土とともに、その土地で形作られ育まれたあらゆる生命を感じながら楽しむものである。」───と。また同時に、それに関わる者は、釣り場である自然に対して真摯に向き合い、どうあるべきかを常に考えているべきだろう。

 北海道ではイワナやヤマメに代表される渓流魚の釣りが盛んだ。北海道の釣り人にとって、こうした魅力ある対象魚が既に存在していたということも、北海道が最後の砦となり得た理由としてあるだろう。また異様であるとさえ感じられたほどの盛り上がりを見せたブラックバス釣りブームとも北海道は無縁だった。これらは北海道の釣り人にとって、ブラックバスが興味の対象外であったということの裏付けでもあろう。実際、行政が行う駆除に反対するなどの目立った動きはほとんど見られなかった。

 だがそんな北海道にあって、ブラックバスを防除していくための釣り人らによる自発的な取り組みが、これまでどれほどあっただろうか。ごく一部の例を除いては、多くの釣り人がこの問題を座視していたのではなかったろうか。

 北海道において捕獲されたブラックバスが釣り人と”無関係ではない”としたならば、それは北海道で釣りを楽しむ者すべてに損失を与え、現在我々が楽しんでいる釣りを衰退させてしまうものかもしれない。もしそうであるとしたならば我々釣り人自身が今後この問題とどう向き合って行くべきか、各々で真剣に考えるべきだろう。

 例えば、一時期ではあるものの、余市ダム、南幌親水公園での捕獲作業にボランティアとして参加した個人の釣り人、釣り団体が存在していたり、ヘラブナの放流に際して一尾ずつ手作業で選別し、外来魚の混入を防止する動きがみられたことなどは、釣り人らによるそうした意識のあらわれでもあろう。

 またこの魚について「寒冷な北海道では、ブラックバスは定着できない」、「どうせ根絶は無理だから、有効利用した方が良い」などといった、道内の釣り人らの発言を耳にしたことも少なくない。しかし私はこれらに代表される先入観で、問題そのものが軽視されたり、対応が遅れるなどして取り返しのつかない事態に陥ることを非常に恐れている。

 現在ブラックバスは2005年6月1日に施行された「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(通称:外来生物法)」により特定外来生物に指定され、その飼育・運搬・販売・譲渡・輸入・野外に放つことなどが原則禁止となった。もちろんこうした法律は歓迎すべきものであろうが、その実効性については未だ疑問の声も少なくない。現在もバスの特定指定への批判や、バスの容認を求める声は多くあるし、外来生物法の施行以前にもブラックバスの移植放流等を禁じた規則等があったにも関わらず、その生息域は拡大の一途であったという不安もある。

 一掃宣言以降、北海道においてブラックバスが生息するという確実な情報はない。だが今後再び、北海道での生息が確認されないという保証はどこにもない。今こそ私たち一人一人が明確な意志と姿勢を貫き、二度とこのような「事件」が発生しないよう力を合わせ、声を大にして叫ばなければならないだろう。

「北海道にブラックバスはいらない」───と。