体外受精・胚移植とは?  

1.体外受精−胚移植とは   2.体外受精法はどんな夫婦に必要か 3.体外受精の手順
4.入院が必要か? 5. 体外受精法をいつ決心するか   6.体外受精法は年何回ぐらい可能か
7. 妊娠するためには何回体外受精を受ける必要があるのか   8. 体外受精法の問題点   9.体外受精法と先天異常  
10. 体外受精法の費用について    

1.体外受精−胚移植とは  

  1978年にイギリスで始められた画期的な不妊治療で,、この方法で世界で初めて誕生した赤ちゃんは、試験管ベビーと呼ばれました。それは卵巣から卵子を排卵直前に経膣的に超音波装置で観察しながら、針で穿刺し採取します。卵子と精子を試験管の中で混ぜ合わせて受精させ、受精を確認した卵(胚)を、カテーテルを用いて子宮腔に戻す(胚移植)ことにより妊娠を期待する方法です。

  

2.体外受精法はどんな夫婦に必要か

 体外受精が世界中に普及し、10数万のカップルがその治療を受けるようになりました。技術的にもかなり安定し、信頼性も高まってきました。10数年も治療を受けても妊娠できず、体外受精の治療を受けて妊娠に成功した夫婦の数は少なくありません。しかし、この方法も万能ではありません。妊娠成功率はなかなか良くならず、まだまだ問題が多いのも事実です。  

体外受精を受ける前に、不妊の原因はどこにあるのか系統的に検査をし、それに基づいて治療を受けることが大切です。今まで受けてきた治療法も大切な方法です。まずは、それらの方法を根気よく受けましょう。そして、どうしても妊娠できない場合には体外受精法を行いましょう。しかし、女性の年齢とともに起こってくる卵子の老化と数の減少はどうしても避けられない障害になります。この意味から、他の方法で妊娠することが難しいと判断された場合は、なるべく若い時期に体外受精法を受けるようにしたいものです。

以下の条件を満たす夫婦を体外受精−胚移植法の適応です。

@卵管性不妊

 妻の両側卵管の器質的、機能的閉塞により従来の方法では妊娠不可能な夫婦

 例えば子宮外妊娠を繰り返し、左右の卵管が無い場合、感染症で卵管が閉塞してしまい、

 卵管形成術を受けても不成功に終わった場合など

A精子減少症

  精子が少なく、運動率も悪く、人工授精を長期にわたって繰り返しても妊娠できない場合も同様で a: 夫の精子数が1000万/ml未満の夫婦  

 b: 夫の精子数が1000万〜4000万/mlで、数回の配偶者間人工授精によっても妊娠しない夫婦

B免疫性不妊

 妻が抗精子抗体陽性の夫婦

 女性側に精子に対する抗体ができて妊娠できない免疫性不妊症も体外受精の良い適応になります。

C未破裂黄体化卵胞

   基礎体温は二相性になっているが、卵が卵巣外に排出していない場合

D原因不明不妊

 この他、種々の検査を行っても不妊の原因がなく、体外受精-胚移植法またはそれに準じた方法以外のあらゆる不妊治療が奏効せず、不妊期間が3年をこえる夫婦

3.体外受精の手順

  @卵巣刺激法

  妊娠率を高めるためには、良質な卵が多数必要になります。そのため、下垂体性性腺刺激ホルモン(hMG)を注射し多くの卵胞を発育させます。卵胞の発育は超音波による診断や血中のホルモン(エストラジオール・E2)の測定によって、その数と成熟度を推定します。その後、胎盤性性腺刺激ホルモン(HCG)を注射し採卵を待ちます。最近ではhMG投与の前にスプレキュアーという点鼻薬を併用します。これによってさらに良質な卵が採れるようになりました。

                        A 採 卵

  採卵法にはいろいろありますが、通常経膣採卵法によって行います。外来で卵胞の大きさを診るときに使う経膣超音波を使いながら、膣から採卵針を差し込んで卵胞液とともに卵子を吸引します。採卵前に軽く麻酔をかけますので痛みはほとんどありません。また、採卵時間も30分以内で終わります。 

  B精液の調整と媒精  胚培養法

 男性の出番です。採卵の当日、病院でマスターベーションによって採取します。

 

 採取した卵子は数時間培養して成熟させます。精子は培養液で処理し、良好精子だけを選別します。その後卵子と精子を一緒に混ぜて受精させます。採卵の翌日受精が成立したかどうか判定します。受精が成立しない場合、移植は中止になります。

 

  C胚移植法

  受精に成功し発育した受精卵は、受精後36〜42時間後に子宮に戻します。これを胚移植と言います。胚移植は人工授精と同じ要領で行い、数分で終了し、麻酔も必要ありません。移植は良好な受精卵を3〜4個移植すると妊娠率が高いとされています。胚移植後は数時間ベットで安静にしていただきます。胚移植後、しっかり着床するまでに3〜4日かかります。このあいだは、心身ともにゆったりと過ごしましょう。夫婦生活は妊娠の成否が判るまでやめておきましょう。仕事は激しい肉体労働以外、通常通りでかまいません。スポーツは控えましょう。

  D黄体期サポート

 胚移植後、着床を助けるために黄体ホルモン(プロゲステロン)や、胎盤性性腺刺激ホルモン(HCG)を注射します。その時一つ注意しなければいけないことがあります。注射によって卵巣が過剰に反応し腫大する状態(卵巣過剰刺激症候群)が発生することがあります。下腹部膨満感、尿量の減少、などあります。

胚移植後約2週間で妊娠の成否を確認します(尿の妊娠反応)。採卵翌日から黄体ホルモンを10日間服用したり、胚移植時並びに胚移植の3日後と6日後にHCGの注射を追加したりします。

 

4.入院が必要か?

 ほとんどのところが、原則的に入院なしで外来ベースで施行しており、卵巣過剰刺激症候群等の合併症により入院が必要な場合があります

  

5. 体外受精法をいつ決心するか  

   最近、女性の晩婚化はますます進み、40才を過ぎて赤ちゃんに恵まれないカップルが増加してきています。体外受精の妊娠率は35才頃から低下し始め、40才を過ぎるとさらに低下します。これは、人間の老化現象であり避けられないことです。このようなことを考えると、今まで受けていた不妊治療からいつ切り替えるか大変迷うところです。治療を行う立場から言うと、30才代前半には体外受精法を開始し、少なくとも3〜4回行うことができれば、かなり優秀な成果が挙げられると考えます。つまり30才以降の女性で3〜4年通常の治療を受けても妊娠できない場合は、体外受精法を受ける決心をした方が良いのです。今まで人工授精を受けている方は、10回ぐらいつまり約1年間人工授精を繰り返しても妊娠できない場合、体外受精を考えた方が望ましいでしょう。卵管が原因と考えれる方は、卵管を開通する手術を行いますが、それでもうまく行かないときはやはり体外受精に切り換えます。子宮内膜症などで、腹腔内癒着が考えられる場合も同様です。また、原因不明の不妊症に対しても、なるべく早期に切り換えた方がよいと思います。勿論、体外受精に切り換えるかどうかは、ご夫婦の経済力、家庭環境、人生観、倫理観などによって左右されることです。

6.体外受精法は年何回ぐらい可能か

   体外受精を行った後、妊娠成立しなかった場合、1〜2カ月は卵巣を休める必要があります。つまり1月に行ったとしたら4月には可能になります。そうすると年4〜5回は体外受精を受けることが可能です。しかし、焦らず、余裕を持って行う事も必要です。

7. 妊娠するためには何回体外受精を受ける必要があるのか  

  1回の体外受精法での妊娠率は残念ながら20%程度です。勿論1回で妊娠される方もおられますが、40代の方で7〜8回でやっと妊娠される方もいます。いったい何回くらい体外受精法を受けたら元気な赤ちゃんに恵まれるのでしょう。多くの不妊センターからの集計では、妊娠例の大部分は(90%)は最初の4回までの体外受精で達成されています。体外受精法を繰り返す度に着実に妊娠・出産するチャンスは高まっていきます。

8. 体外受精法の問題点  

   1、卵巣過剰刺激症候群の発生   体外受精法では強力な排卵誘発を行うため、卵巣が大きくなり、腹水がたまったりする場合があります。特に妊娠に成功すると胎児がホルモン(HCG)を盛んに分泌するために、それが母体の卵巣をいっそう刺激して卵巣はますます大きくなり、腹水も増加してきます。こうなると血液中の水分が少なくなり、血液濃縮状態となり、固まりやすくなります。そこで、水分補給が大事になります。時には入院し点滴で水分、電解質を補給することも必要になります。この卵巣過剰刺激症候群も妊娠が成立しない場合には月経発来とともに小さくなり、元の大きさに戻ります。妊娠した場合はその状態が妊娠6〜8週には元の卵巣になり腹水も自然に吸収されます。ですから、医師の注意事項をきちんと守っていればなにも心配ありません。

   2、体外受精の妊娠率・多胎妊娠率 体外受精ー胚移植法の妊娠率は、年齢や適応により大きく異なります。日本産婦人科学会が行った統計調査によると、1990年における日本全国の集計で、妊娠率は胚移植あたり21% で、妊娠率を向上させるために3個前後の受精卵を移植するため、約20%に双胎妊娠が、約4%に品胎妊娠がみられます。多胎妊娠の結果として、早産および体重2500g以下の低出生体重児の増加があげられます。妊娠後は医師の注意を守り心身ともにゆったりとした日常生活を送ることが必要です。  

  3、妊娠初期の流産と子宮外妊娠  体外受精法による妊娠は自然の妊娠に比べて流産率が高いと報告されています。年齢によっても異なりますが統計的には15〜20%程度で、特に40歳以上で30〜40%と高くなります。子宮外妊娠の発生率は4.7%程度と報告されています。妊娠初期には心身ともに安静を守り、ゆったりとした気持ちで過ごしましょう。下腹部痛、出血などある場合は受診するようにして下さい。

9.体外受精法と先天異常  

  体外受精法によって出生した赤ちゃんが心身とも健康で元気に育って行くかどうかは、体外受精法の成功率とともに大変重要な問題です。わが国を含めて世界各国が出生後の赤ちゃんの発育状況を追跡調査するのはこのためです。既に世界中で過去10数年間に数十万人の体外受精法による赤ちゃんが出生し、この面での安全性は確立したように思われます。今までの統計では先天異常児は1%強とされています。この頻度は自然妊娠での発生頻度とほぼ同じ範囲と考えられます。つまり、体外受精法による出生児に先天異常が多いのではないかという心配はありません。

10. 体外受精法の費用について

  体外受精法は他の不妊症の治療法とは比べ物にならないほど費用がかかります。それは、現在のところ体外受精法には保険診療が適用されないからです。体外受精法の費用は排卵誘発剤、超音波検査、ホルモン測定、採卵、卵子および精子の調整と培養、胚移植、黄体期の管理、そしてその間の入院費が主なものです。

 

   顕微授精とは  

1.顕微授精とは  顕微授精は1980年後半からヒトの不妊症治療法として臨床応用され、顕微鏡下に、細いガラス管を使用して精子を卵に注入し受精させるものです。卵の透明帯にガラス管で穴をあけ精子の進入を助ける透明帯開孔術(PZD)、囲卵腔に精子を注入する囲卵腔内精子注入法(SUZI) 、細胞質に直接精子を注入する細胞質内精子注入法(ICSI)の三種類がありますが、ICSI法の成功率が高いので現在の顕微授精はICSIが主流になっています。ICSI法は卵に直接精子を入れるため重症男性不妊症にとって非常に有効な治療法と言えます。

2.当院では次のような患者さんに顕微授精を行います  顕微授精を行うのは、体外受精で受精できなかった場合、体外受精では受精率が非常に低い場合、あるいは精液所見から見て最初から体外受精では不可能と考えられる場合です。

3.顕微授精の受精率  顕微授精を行うのは通常の体外受精では受精率が0%、もしくは0%に近いケースのみですが、顕微授精により生存卵の半数以上(50%〜60%)が受精します。しかし逆に顕微授精をしても40%〜50%の卵は受精しない訳で、顕微授精を行っても受精卵が1個も得られず胚移植を行えない場合もあります。

4.先天性奇形  現在までにICSI法により1万人以上の赤ちゃんが生まれていると推測されます。 1996年5月に発表されたコーネル大学のデータでは、同大学のICSIによる出生児177名のうち大きな先天性奇形は1例(0.6%)、小さな先天性奇形は2例(1.2%)で、これは通常妊娠における大きな先天性奇形率3.6%、小さな先天性奇形率2.8%に比べて低い値になっています。他の施設からも、顕微授精により先天性奇形の発生率は上がらないと報告されています。

5.顕微授精を受けるまでの手続き  顕微授精を希望される患者さんは担当医にその旨を申し出て下さい。担当医が患者さん夫婦の資料を検討した結果、顕微授精の適応があると判断した場合には顕微授精の待機リストに登録し、外来でその旨を患者さんにお伝えし、順次治療を受けていただくことになります。

6.具体的方法 顕微授精の採卵、胚移植は体外受精と同様です。したがって、顕微授精を実施するにあたり患者さんへの新たな処置、手術等はありません。

7.精巣精子採取法(TESE)について 射精された精液に精子の存在しない無精子症においても、精巣に精子が存在していれば、精巣を生検することにより精子を採取し、顕微授精によって妊娠する事ができます。

  ICSIと染色体異常  

最近(1995年)ICSIによって妊娠が成立した婦人において、妊娠初期に染色体検査をしたところ、性染色体異常に頻度が高いという報告がありました。 ランセットに発表されたこの報告では、ICSIによる性染色体異常率は理論上5%程度になると推測しています。 一般の妊娠におこなわれた羊水による染色体検査では、0.19%と報告されています。しかし、プリュッセル の大学からの報告では、ICSIによる性染色体異常は0.85%と報告され、アメリカコーネル 大学では、性染色体異常は0.17%、大奇形は1.6%の頻度で、体外受精児(3.5%)やニューヨーク州の正常婦人から出生した児(3.7%)の場合より低いと報告されました。また、ICSIでは、精子造精能力に関する遺伝子が受け継がれ、男児が生まれた場合には精子減少症になる可能性があります。 IVFでは、小学生まで達した児の学力、発育に差はないとされています。ICSIの場合も、これまでの報告からはあきらかに異常があるとは考えられません。現段階では、安全と判断してよいと考えます。