いつだったか、スズキと映画を見に行った。スズキは周りとはちょっと違うところで笑っていて、まあそういう奴かと思いつつも、帰り道、コンビニでビールを買いながら、何が面白かったのか聞いてみた。
「いや、同じだよ。あんまりくだらないアメリカンジョークだったからさ。」
「え?それは俺だって笑ったけど、」
スズキの笑いは、ちょっと早かった。
「――ああ、そうか。俺、字幕読まないから。」
なるほど。
当たり前にバイリンガルとか、トリリンガルとかなのだろう。
「そうか。字幕読まなくてもいいのは、うらやましいな。」
「どうして?」
「だって疲れるだろう?映像を見たいのに、字幕も読まなくちゃいけなくて、視線が定まらない。かといって、吹き替えだとかんじでないしな。」
「なるほど。」
そういうものか、と納得したスズキをみて、その話はそれで終わったものと思っていたんだ。
講義と講義の間、無駄に空いた1時間をコーヒーを飲むことに費やしていた俺に、難しい顔をしたスズキが
「なあ、こんにゃくってどれくらい持つのかな。」
開口一番そう訊いてきた。
「さあ?でもかなりもつんじゃないか?」
こんにゃく?
「そうか……半年くらいなら大丈夫だと思うか?」
半年?
「……どうかな。」
そもそも半年も取っておくものなのか、こんにゃくって。
火を通せば大丈夫か、というスズキのつぶやきにますます不信が募る。
「カジはおでん、好き?」
おでん?
「好き、だけど……。」
なにその話題の転換。
「そうか!」
とたんに、スズキはぱっと柳眉を開いた。こんにゃくと、おでん?
「半年前のこんにゃくの入ったおでんは、あまり食べたくない。」
「……そうなのか?」
そうじゃないのか?
そう考えこまれると、どうしていいのかわからなくなるじゃないか。
スズキの凡人にはない発想にはだいぶなれたつもりだけど、こいつの思っていることは相変わらずよくわからない。
「スズキも食べるっていうなら、食べてもいいよ。」
結局その夜、鍋に入ったスズキ作のおでんを、俺らは2人でつつくことになった。
翌日、教室を出ようとした俺に、スズキが機嫌よく声をかけた。
「오늘의 강의는 무엇입니까 ?」(今日講義は?)
「え?ああ、俺はあと概論だけ。」
返事をした俺に、スズキは無駄にキラキラした笑顔を向けた。
「굈러면 , 강후는 한가합니까 ?」(じゃあ、午後は暇?)
「特に予定はないけど。」
「실은 , 영화 틶켓을 받았다 한국 영화의 .」(実は映画のチケットがあるんだ。韓国映画。)
韓国映画は、最近確かに面白い。
「タダでいいなら、行かせてもらうよ。」
「괎 , 다음에 만납시다 .」(じゃあ、またあとで。)
「ああ、あとでな。」
思いがけず、ラッキーだ。
足取りも軽く去っていくスズキを俺は笑顔で見送った。
「……カジ、今のなに?」
「は?何って、スズキだろ?」
並んで教室を出ようとしていたゼミの仲間に、奇妙な目で見られていることに気付いたのは、スズキの姿がすっかり見えなくなってからだった。
――もしかして、俺、また変なことになっている?
まれにスズキのいる世界に、引っ張り込まれていることがある。凡人とはちょっと違う、独特の価値観。
だからスズキ以外の人間が、俺を困ったような、心配するような眼で見るとき、だいたいそこにはスズキが絡んでいたりする。
「スズキなにしゃべってた?」
「なにって、聞こえてただろう?」
だって、俺の隣にいたわけだし。
「聞こえたけど……。」
「なんだよ、はっきりしないな。」
「いや……ま、いいや。」
いいのか?
いいなら別にいい。思い返してみても、さっきのスズキにおかしな所はなかった。俺も別におかしなことにはなっている様子はない。
と、思ったんだ。
おかしなことに気がついたのは、もちろん映画を見てからだった。
「スズキ……俺、なんかおかしかったんだけど……。」
「なにが?」
おもしろかったな、映画!と笑顔で振り向くスズキに、これはたぶんスズキのせいだと思うと、力が抜ける。
「おれ、見たこともない韓国語がものすごくわかる……。」
っていうか、韓国語が韓国語として聞こえない!!
「そうだよ。」
そうだよ!?
やっぱり、あれか、こんにゃくか?そうなのか?
こんにゃくなのか?
「カジが字幕なしで映画が見たいって言ってたからさ。」
こんにゃくなんだな?
どうなんだ、スズキ!!
「そういえば、昔、頼まれて、ほん○くこんにゃく作ったなぁと、思いだして。」
どうして普通のこんにゃくで満足しないんだ!?
「でもハングル版しかなかったし、しかも半年も前だったし、これでもちょっと迷ったんだけど。」
迷うな!
「まあ、でも、カジはおでんも好きだって言うし、いいかなと思って。」
よくない!!
よくないですよ!!!
ビックリスルデショ!!
「映画、おもしろかったな。」
「――そうだな。」
結局、スズキが無駄に笑顔をキラキラさせるから、俺はしばらく一人でうめくしかなかったのだった。
【言い訳】
扉絵がドラえ○んのピンクのドアだったので、「これはもはや条件反射」で映画見に行ってたなぁっていうのと、「毒されてきたようです」でド○えもんだったなあ、と思って、ほん○くこんにゃくネタが妄想されました……(*_*;
頭っからおちの分かる作りですみません……
スズキは、危険のないものなら遠慮なく、そこそこ危険なものもそれなりに、カジに使用していそうです。きっといずれガジェット的にするつもりです!
で、カジ→スズキは、なんとなく「困ったなぁ」と「面白いなぁ」と「すごいなぁ」が混在している感じ、なんです。独断と偏見で、すみません。
な ん だ こ の も え っ こ た ち は ! !
えええええなんだこいつら!!
原作には依然感じたことのないMOEタイフーン!!
まず冒頭の字幕読まないスズキがいけすかなくてかっこよずぎる(笑)!そうだよなお前はそういう奴だよスズキ!
スズキは確実に作ったことあるよね、ほんやくこんに●く…(爆笑)!半年前に何があった!
そして「スズキも食べるなら食べてもいいよ」ってまんまと食べちゃうカジが愛しすぎます。
わたしが書くとカジは微妙にひねくれてていまいちっていうか全然可愛く感じないのですがこのカジはやべえ可愛い…!個人的に「ビックリスルデショ!!」が可愛くて大好きです
文体やテンポもわたしのノリに合わせてくださってモジモジしつつも嬉しいですエヘ!
こんな素晴らしすぎる作品をmoriさんほんとにありがとうございましたvvv
カジとスズキって捨てたもんじゃなかったんですね!
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