【ハーフムーン・スリーピン数時間後】
壁に立てかけられたプラスチックの円柱や積み上げられたダンボール箱の隙間を縫って、一直線の光がいくつも部屋に差し込んでくる。
まだひやりと冷たい空気と外の静けさから、早朝の時間帯だろう。
まるでバリケードのように寝床を取り囲む瓦礫──の類と呼ぶにふさわしい──は俺が頭をめぐらせて時計を探すことはおろか起き上がりドアまで歩くことすら許可できない風情だった。
歩を一歩進めるためにかかるであろう手間と時間について考えると、寝起きの霞がかった頭の奥がかすかに痛んだ。
俺は一度起しかけた身を毛布の中に戻し、眠気にふたたび身を任せることにした。頬と鼻の頭が冷たくて、毛布を顔まで引き上げる。
「……ん、カジ…?」
背中のあたりで身じろぐ気配と、少し掠れた妙に耳に残る声。腰のあたりにゆるく回されていた腕(なんと俺は今気がついた)にかすかに力が込められる。
その拍子に届く、フローラル系のなんかやたらとイイ匂い。
「あと、1時間……」
えーと。
…えええええええええ?
スリット状で届く朝日が目の前の床をあたためはじめる。寝返りをうつのはなんだか非常にまずい気がして、俺はそのまま目蓋を閉じた。
【ハーフムーン・スリーピン更に数時間後】
ひとつの論理演算がぽっかりと頭に浮かんで俺は目を覚ました。頭を悩まされたわりにそれがずいぶんとシンプルなものだったので、半信半疑で何度か反芻してみたが今のところそこに綻びはなさそうだった。
さっそくかたちにしてみたい。昨日までのぬかるみに足をとられたような、脳の回路の一部が断線して妙な遠回りをしているようなもどかしい感覚はスッキリと消えていて、自分がすっかり回復していることに気がついた。こんなにいい気分は久しぶりだ。
目蓋を透かして明るい光が届く。今日はきっといい天気だろう。目を開けると腕のなかにまごうかたなき回復源がいて、おもわず顔が笑ってしまった。
カジは眠るとすこし幼い顔になる。
できればその頬あたりに触ってみたかったがそんなことをすれば目を覚ましてしまいそうだったので、どうせ起こしてしまうならとおもいきり抱きしめてみた。文句はいっそ覚悟の上である。
「……ん、…どした…?」
あたたかい身体が小さく身じろいだ。眠たそうな声でゆっくりと持ち上げられた手がぽんぽんと2回背中をたたく。
そこで俺は身を起こすタイミングを簡単に見失ってしまった。
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